勝利への讃歌:ジョーン・バエズ&エンニオ・モリコーネ「Here’s To You」 (Ennio Morricone & Joan Baez)

人気がある歌,定番の名曲

勝利への讃歌:Here’s To You (Ennio Morricone & Joan Baez)

1920年のアメリカで起きた「サッコ・バンゼッティ事件」(The Trial of Sacco and Vanzetti)を描いた映画「死刑台のメロディ」の主題歌です。原題は「Here’s To You」(あなたがここにいる:あなたを祝福)で、日本では「勝利への讃歌」「勝利への賛歌」と訳されましたが、誰も「勝利」せず、喜び讃えたものでもありません。今なら「Here’s To You」と、そのままのほうがよいと思うのですが、当時は日本語の題名を付けることが当たり前だったので、『勝利をわれらに』と『愛の讃歌』をくっつけたような、奇妙な題になっています。それでも敢えて「勝利への讃歌」のタイトルを使うとするならば、二人の若者が受けた受難と、当時のアメリカ国民にもたらした相互理解と正義が全うさせることの大切さを示し残したことへの、尊い命を捧げて得た教訓的な「勝利と讃歌」と云えると思います。

敢えて言えば、「サッコ・バンゼッティ事件」は、偏見と敵意によるアメリカ裁判史に残る恥ずべき冤罪事件です。ふたりのイタリア系移民のアナーキスト、ニコラ・サッコとバルトロメオ・ヴァンゼッティがボストンで強盗殺人の犯人とされた事件です。「疑わしきは罰せず」の裁判の基本から逸脱しているのみならず、証拠や証言の不確実さ、あるいはでっちあげがありながら、マサチューセッツ州とボストン裁判所は、国内および国際社会からの抗議を受け入れず、判決は確定し、ふたりを電気椅子で死刑に処しました。(詳しくはWikipediaなどを参照してください。)
ふたりの死刑執行の報を知った人々の心に去来したものは、正義が失われた悲しみと、自分たちの無力さから来る、ふたりへの同情しか無かったのです。それまでに、この事件に費やされた行動と、語り尽くされた議論・意見・批判がすべて意味を失ったときに残った言葉が、「Here’s To You」の四行詩で、これ以上の言葉は必要がないと思わせる素晴らしい詩です。ジョーン・バエズはふたりに寄せる想いとふたりの生前のステートメントの語句を引用してこの詩を作りました。映画音楽で有名なイタリアの作曲家エンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)の演奏で歌うジョーン・バエズの声は、美しく、力強く、そして悲しく、わたしたちに呼びかけているようです。

「Here’s To You」は、「あなたたちがここにいる」で「君に乾杯」という意味でも使いますが、この歌では、「長い投獄生活から、やっとここに帰ってきた」と、悲しみを湛えて、死刑執行で開放されたふたりををねぎらう言葉になっています。「That agony is your triumph」は、二度とこのような悲劇が起こらなくなったときですが、残念ながら世界中で、もちろん日本でも冤罪事件が起きています。この歌は懐メロにはなりません。それ故に人々に訴えかける、悲しい響きを失しなわない歌です。何時になったら「勝利」のときは来るのでしょうか?

Here’s To You (Ennio Morricone & Joan Baez)勝利への讃歌:歌詞

Here’s to you, Nicola and Bart
Rest forever here in our hearts
The last and final moment is yours
That agony is your triumph

勝利への讃歌(訳詩)

あなたたちを祝福する、ニコラとバート
わたしたちの心の中で永遠のやすらぎを
最後の最期の瞬間はあなたたちのもの
受難があなたたちの勝利となるとき


ベン・シャーン「サッコとバンゼッティ
アメリカの画家ベン・シャーンによる「サッコとバンゼッティ」(左バルトロメオ・バンゼッティと右ニコラ・サッコ)と右「サッコとバンゼッティの受難」(ふたりの棺の前に立っているのは、左から、当時の最高裁判事、審議委員会議長、裁判所判事。背景は裁判所です。)

Sacco, Nicola (1891-1927)

“If it had not been for these things I might have lived out my life talking at streetcorners to scorning men. I might have died unmarked unknown a failure. Now we are not a failure, this is our career and our triumph. Never in our full life could we hope to do such work for tolerance, for justice, for man’s understanding of man as now we do by accident. Our words-our lives- our pains nothing! The taking of our lives -lives of a good shoemaker and a poopish pedler all that Last moment belongs to us. That agony is our triumph"

Viva l’anarchia!"

“Farewell, mia madre."

Bartolomeo Vanzetti (1888-1927)

“I wish to forgive some people for what they are now doing to me."

Joan Baez - The Ballad of Sacco and Vanzetti

Joan Baez – The Ballad of Sacco and Vanzetti
「勝利への讃歌」が二人への哀悼を捧げたものなら、これは美しく、悲しみと怒りを表現した名曲。「サッコとバンゼッティのバラード」です。

サッコ・バンゼッティ事件Wikipedia
Sacco and Vanzetti:Wikipedia 英語Wikipediaには日本語Wikipediaより多くの情報が掲載されています。
ジョーン・バエズWikipedia
ジョーン・バエズ:オフィシャルサイト
エンニオ・モリコーネ(Ennio Morricone)Wikipedia