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エドガー・アラン・ポー「大鴉」(The Raven)を読む

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The Raven with Vincent Price

The Raven with Vincent Price 朗読ヴィンセント・プライス

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「大鴉」(エドガー・アラン・ポー:The Raven by Edgar Allan Poe)」を読む

エドガー・アラン・ポーの「大鴉」』(おおがらす、The Raven)は、1845年に発表されたものです。ポー独自のの詩論に基づいて、論理的に構築されたこの作品は、様式化された韻による音楽性と暗喩に満ちた言葉を用いて、「知識」と「感情」の葛藤、「愛」と「死」、「神」と「魔」、そして人間の内にある暗闇ともいえる、「無」と「理由のない恐れ」などを主題にした抒情詩です。

日本でも古くは詩人・日夏耿之介(ひなつ こうのすけ)の翻訳など多くの文学者や詩人による訳詩があります。ただ、原文 が英古文体(Old English)であることもあり、原詩の格調ある詩文の調子を重視して訳すと、意味が分かりずらくなり、反対に意味のみ重視すると、詩の趣が損なわれることから、発表・出版には至らないということになります。特にこの詩は、英文学者の方たちの研究対象でもあり、いいかげんなものは出せないという、暗黙の了解もあります。それでも、この詩に関する本はたくさんあります。また、この詩からインスピレーションを受けて作られた映像、音楽も数え切れません。珠玉混合、下手なものに当たれば、この詩を味わう前に嫌いになります。(有名無名にかかわらず、たくさんあります。紹介文だと思えば納得できますが…)やはりこの詩を楽しむには、原詩を理解するのが一番です。

そこで、素人のひとりがこの詩を理解するために書いた、雑な訳なので多めに見ていただいて、原詩を読み、その意味する対訳を併記して、少しでもこの美しく、意味深い詩を味わう一助になればというのが下の訳詩です。へたな訳詩は、意味を知るための参考ガイダンスです。詩的でもなければ、ポーの格調高い古文調の片鱗もありません。とにかくこれも鵜呑みにしないで、あくまでも自分で原詩を味わうようにしてください。

動画はこの詩の中で使われている言葉の「音」が、次第に変化するのを知るため、ポーがこの詩に施した音楽性を知るために掲載してあります。映像演出は参考にもなりますが、読者のイメージを狭くすることもあります。蛇足ですが、ざっとこの詩を見てわかるとおり、脚韻などの技巧が多くあります。また、言葉一つが古典を暗喩していたり、もともと和訳が難しいものであることも分かると思います。(というよりも翻訳は不可能だと、萩原朔太郎も書いています。)
とはいえ、このポーの仕掛けを考えるのも、この詩の楽しみ方のひとつです。「nothing more」「evermore」、繰り返し大鴉が発するたった一つの言葉「Nevermore」も、主人公の心理の変化によって、節ごとに大鴉の存在感が増してゆき、含む意味合いを変えてゆく妙も(感覚から内面へ)、ポーの詩作の巧みさです。

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「大鴉」の主題は「知識」「感情」「葛藤」「愛」「死」「神」「魔」二度と戻らぬ「時」

この詩を読むあなたが体験するのは、ひとり暮らしの晩年の男の心に去来するさまざまな想い・モノローグです。言わば、物語は極めて個人的なインナートリップで、上記の「主題」に沿って、章ごとの揺れる心理を感じながら読み進めることをお勧めします。そして、最終章まで読み進めたあなたは、「Nevermore(二度と)」の言葉の深さを感じることができると思います。
もちろん、自分なりの訳を考えるのも楽しみのひとつです。自分で読んで、感じたものがあれば、さまざまな人の、この詩の翻訳を考えることもできると思います。
では、キーワードを頼りにして、対訳を参考にしながら、近代文学史に燦然と輝く、英語詩の傑作を読んでみましょう!

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エドガー・アラン・ポー「大鴉」英日対訳

Edgar Allan Poe The Raven  [First published in 1845]
エドガー・アラン・ポー「大鴉」 [1845年初出]

(1)
Once upon a midnight dreary, while I pondered weak and weary,
Over many a quaint and curious volume of forgotten lore,
While I nodded, nearly napping, suddenly there came a tapping,
As of some one gently rapping, rapping at my chamber door.
`’Tis some visitor,’ I muttered, `tapping at my chamber door –
Only this, and nothing more.’
(1)
独りきりの深夜のこと、私は、考え込んで、弱り疲れて、
忘れ去られたたくさんの奇妙で物珍しい伝承の本ゆえに
眠りに近く、まどろむ頃合、不意に何かが来て叩いている
何者かが優しくこつこつと、私の部屋の扉をこつこつと叩いている。
「来客がいるのか」私は呟いた。「部屋の扉がこつこつと叩かれている
それだけのことか、nothing more(他には何もない)。」

(2)
Ah, distinctly I remember it was in the bleak December,
And each separate dying ember wrought its ghost upon the floor.
Eagerly I wished the morrow; – vainly I had sought to borrow
From my books surcease of sorrow – sorrow for the lost Lenore –
For the rare and radiant maiden whom the angels named Lenore –
Nameless here for evermore.
(2)
あぁ、はっきりと覚えている、それは寂しい12月のこと。
そして、消え行く燠火が、床の上に亡霊を照らし出した。
夜明けをひたすら願った。本を繙(ひもと)くことで、
悲しみを遮ろうとするも虚しく―レノアを失ったゆえの悲しみを。
天使たちがレノアと名づけた、たぐい稀なる輝く乙女。
今は名こそない、evermore(永久に)。

(3)
And the silken sad uncertain rustling of each purple curtain
Thrilled me – filled me with fantastic terrors never felt before;
So that now, to still the beating of my heart, I stood repeating
`’Tis some visitor entreating entrance at my chamber door –
Some late visitor entreating entrance at my chamber door; –
This it is, and nothing more,’
(3)
そしてつややかな悲しみは、とりまく紫のカーテンのざわめきに覆われて。
私は慄いた。今までに感じたことがない、稀なる戦慄で
そして今。心臓の鼓動を高ぶらせながら、立ち尽くして繰り返す、
「わたしの部屋の扉の入り口で入りたいと哀願する訪問者の誰か―
わたしの部屋の扉の入り口で入りたいと哀願する遅い訪問者は誰か―
それだけのことか、nothing more(他には誰もいない)。」

(4)
Presently my soul grew stronger; hesitating then no longer,
`Sir,’ said I, `or Madam, truly your forgiveness I implore;
But the fact is I was napping, and so gently you came rapping,
And so faintly you came tapping, tapping at my chamber door,
That I scarce was sure I heard you’ – here I opened wide the door; –
Darkness there, and nothing more.
(4)
やがて私の魂は強くなり、躊躇うこともなくなり、
「どなたか、」私は言った。「或いはご婦人よ、赦してくれたまえ、お願いする。」
しかし事は私は居眠りし、じっくりドアを叩く音。
そして幽(かす)かに、戸を叩く音。私の部屋の戸を叩く音。
「私はたしかに聞いたのか、おぼつかない。」 そして私はドアを広く開けた。
暗闇がある。nothing more(他には何の音もない)。

(5) Deep into that darkness peering, long I stood there wondering, fearing,
Doubting, dreaming dreams no mortal ever dared to dream before
But the silence was unbroken, and the darkness(stillness) gave no token,
And the only word there spoken was the whispered word, `Lenore!’
This I whispered, and an echo murmured back the word, `Lenore!’
Merely this and nothing more.
(5)
その暗闇の底深く、長らく私はそこに立ち、いぶかり、震えながら、
疑い深く、いままで誰も夢見ようとはしなかった夢を夢見ながら。
しかし静寂は破られない、暗闇はなんの兆しも与えなかった
そして、語られたたったひとつの言葉、囁いた言葉、「レノア!」
これは私の囁き、そして木霊がつぶやき返した言葉、「レノア!」
ただそれだけ、nothing more(他には何の言葉もない)。

(6)
Back into the chamber turning, all my soul within me burning,
Soon again I heard a tapping somewhat louder than before.
`Surely,’ said I, `surely that is something at my window lattice;
Let me see then, what thereat is, and this mystery explore –
Let my heart be still a moment and this mystery explore; –
‘Tis the wind and nothing more!’
(6)
部屋の中に引き返す。私の中で魂が燃え盛らる。
すぐにまた叩く音を聞いた、たぶんさっきより騒がしい。
「確かに、」私は言った。「確かに私の窓格子に何かいる。
見てみよう、何がそこにあるのか、そしてこの不可解を探ろう。
少しの間、心を平静にして、そしてこの不可解を探ろう。
これは風。nothing more(他には何も見つからない)。

(7)
Open here I flung the shutter, when, with many a flirt and flutter,
In there stepped a stately raven of the saintly days of yore.
Not the least obeisance made he; not a minute stopped or stayed he;
But, with mien of lord or lady, perched above my chamber door –
Perched upon a bust of Pallas just above my chamber door –
Perched, and sat, and nothing more.
(7)
窓を開け雨戸を押し広げ、その時、戯れ翻めく音。
そこには、過ぎし聖なる日々の、厳かな大鴉が歩んでいた。
彼は少なからず誇らしげで、止まるというより彼は佇んでいた。
しかし、王か妃の風格で、私の部屋の扉の上に止まった。
まさに私の部屋の扉の上、アテナの胸の上に止まるよう
止まり、座った。Nevermore(他には何もしない)。

(8) Then this ebony bird beguiling my sad fancy into smiling,
By the grave and stern decorum of the countenance it wore,
`Though thy crest be shorn and shaven, thou,’ I said, `art sure no craven.
Ghastly grim and ancient raven wandering from the nightly shore –
Tell me what thy lordly name is on(in) the Night’s Plutonian shore!’
Quoth the raven, `Nevermore.’
(8)
そしてこの漆黒の鳥は私の哀しい夢を、微笑みにと紛らわせている、
重々しき、荘厳な礼節を風貌に纏って。
「そなたは鶏冠(とさか)を剃り刈られども、」私は一言申し添える。「怯えのかけらもないものか。
恐ろしく邪悪な古えの大鴉、夜の淵より迷い込んで、
夜の冥界の淵での、あなたの尊名はなんと言う!」
大鴉は呟いた、「Nevermore(二度と答えぬ)」

(9)
Much I marvelled this ungainly fowl to hear discourse so plainly,
Though its answer little meaning – little relevancy bore;
For we cannot help agreeing that no living human being
Ever yet was blessed with seeing bird above his chamber door –
Bird or beast above the sculptured bust above his chamber door,
With such name as `Nevermore.’
(9) このみすぼらしい鳥が、きっぱりと会話することに、大いに私は驚嘆した。
にもかかわらず、その答えの意味は少なく、手がかりも僅か。
人が生きることにも手助けとはならない
扉の上に止まる鳥を見ることに恩恵があるものか
部屋の扉の上、彫刻の胸像の上の鳥か獣
「Nevermore(けしてない)」という名前の

(10)
But the raven, sitting lonely on the placid bust, spoke only,
That one word, as if his soul in that one word he did outpour.
Nothing further then he uttered – not a feather then he fluttered –
Till I scarcely more than muttered `Other friends have flown before –
On the morrow he will leave me, as my hopes have flown before.’
Then the bird said, `Nevermore.’
(10)
しかし静穏な胸像の上に孤独に居座る大鴉は、語るのみ、
それは一つの言葉、まるでそのひとつの言葉は、彼の内なる魂のほとばしり。
それ以上には何もひとつも語らない。羽根一つも羽ばたかせず。
消え入りそうに私は呟いた。「他の友人たちも飛び去った、
明け方には彼は私を置き去りにするだろう。私の希望が飛び去ったように。」
すると、鳥は言った「Nevermore(去りはしない)」

(11)Startled at the stillness broken by reply so aptly spoken,
`Doubtless,’ said I, `what it utters is its only stock and store,
Caught from some unhappy master whom unmerciful disaster
Followed fast and followed faster till his songs one burden bore –
Till the dirges of his hope that melancholy burden bore
Of “Never-nevermore.”‘
(11) 静寂を破る流暢に語った答えに驚き。
「疑いもない」と私は話した。「ただ一つ仕込み蓄えただけに違いない。
災厄を被った不幸な主人に捕われたのだ
素早く従い、瞬く間も無く迅速に彼の重荷を嘆く歌を倣ったのだ。
憂愁に苛まれた彼の望みの哀歌を
それは、「Never-nevermore(二度と、二度といやだ)」

(12)
But the raven still beguiling all my sad soul into smiling,
Straight I wheeled a cushioned seat in front of bird and bust and door;
Then, upon the velvet sinking, I betook myself to linking
Fancy unto fancy, thinking what this ominous bird of yore –
What this grim, ungainly, ghastly, gaunt, and ominous bird of yore
Meant in croaking `Nevermore.’
(12)
それでも大鴉は私の哀しい魂を微笑みにと紛らわせている、
まっすぐ鳥の胸像の扉の前に置かれた安楽な椅子によろめき寄り、
それからわが身を任すようにビロードの中沈み込んだ
妄想は限りなく、この不吉な鳥に考えをめぐらせて
この険悪、ぶざまな、凄惨な、やせこけた、そして不吉な鳥
「Nevermore(出来はしない)」としゃがれた声鳴く

(13) This I sat engaged in guessing, but no syllable expressing
To the fowl whose fiery eyes now burned into my bosom’s core;
This and more I sat divining, with my head at ease reclining
On the cushion’s velvet lining that the lamp-light gloated o’er,
But whose velvet violet lining with the lamp-light gloating o’er,
She shall press, ah, nevermore!
(13) そして私は思案を決めた、言葉も発することなく。
今私の内なる芯を燃やした火のような視線の鳥へ:
そしてその時私は悟り、頭を寛らげ凭れる。
ランプの灯りが満ちたりたように、ビロード張りのクッションを照らし、
ランプの灯りが満ちたりたように、誰かの紫色に張りられたビロードを照らし、
彼女が凭れる…あぁ、Nevermore(二度とあるものか)!

(14)
Then, methought, the air grew denser, perfumed from an unseen censer
Swung by Seraphim whose foot-falls tinkled on the tufted floor.
`Wretch,’ I cried, `thy God hath lent thee – by these angels he has sent thee
Respite – respite and nepenthe from thy memories of Lenore!
Quaff, oh quaff this kind nepenthe, and forget this lost Lenore!’
Quoth the raven, `Nevermore.’
(14)
かくて、考え込んだ。空気は重々しく、ひと知れぬ香炉からの芳香、
熾天使が舞う、ふさ敷きの床を踏み鳴らしながら
「哀れ者、」私は叫ぶ。「神が遣わしたのか―この天使たちを私に寄越したのか。
落ち着け、落ち着いて、レノアの思い出を偲んで麻薬をとろう、
呑もう、この優しきネペンテを呑んで、この失ったレノアを忘れよう!
大鴉は呟く、「Nevermore(もうけして出来ぬ)」

(15) `Prophet!’ said I, `thing of evil! – prophet still, if bird or devil! –
Whether tempter sent, or whether tempest tossed thee here ashore,
Desolate yet all undaunted, on this desert land enchanted –
On this home by horror haunted – tell me truly, I implore –
Is there – is there balm in Gilead? – tell me – tell me, I implore!’
Quoth the raven, `Nevermore.’
(15)
『預言者よ!』私は言った、『邪悪の使い! – 預言者にして、鳥か悪魔!
いかなる誘惑があろうと、この浜辺(世)に嵐が猛ろうとも
寂しき思いは揺るぎもない、この荒涼たる地に魅せられて
恐ろしき幽冥たるこの館にあって、真に語り給え!
どこに - ギリヤドの香油はどこにある?真に語り給え!
大鴉は呟く、「Nevermore(どこにもない)」

(16)
`Prophet!’ said I, `thing of evil! – prophet still, if bird or devil!
By that Heaven that bends above us – by that God we both adore –
Tell this soul with sorrow laden if, within the distant Aidenn,
It shall clasp a sainted maiden whom the angels named Lenore –
Clasp a rare and radiant maiden, whom the angels named Lenore?’
Quoth the raven, `Nevermore.’
(16)
『預言者よ!』私は言った、『邪悪の使い! – 預言者にして、鳥か悪魔!
われらがともに慕う神がおわす、われらの上に弛む天国のもとで
彼方のエデンの園にあって、この魂が哀しみに満ちていようとも、
天使たちがレノアと名付けた、聖なる乙女は(神に)抱かれて
天使たちがレノアと名付けた、稀にして燦然たる乙女は(神に)抱かれているのでは?
大鴉は呟く、「Nevermore(そうではない)」

(17)
`Be that word our sign of parting, bird or fiend!’ I shrieked upstarting –
`Get thee back into the tempest and the Night’s Plutonian shore!
Leave no black plume as a token of that lie thy soul hath spoken!
Leave my loneliness unbroken! – quit the bust above my door!
Take thy beak from out my heart, and take thy form from off my door!’
Quoth the raven, `Nevermore.’
(17)
「その言葉はわれらの決別の徴。鳥か悪魔!」突如私は叫ぶ。
「嵐の中へ帰れ、夜の冥界の岸辺へ!
おまえが語った嘘を印した黒い羽(は)ひとつ残さずに去れ!
揺るぎもない寂しき思いをそのままに、扉の胸像から引き払え!
私の心からその嘴を抜け!扉を閉めて還るのだ!
大鴉は呟く、「Nevermore(けして去らぬ)」

(18)
And the raven, never flitting, still is sitting, still is sitting
On the pallid bust of Pallas just above my chamber door;
And his eyes have all the seeming of a demon’s that is dreaming,
And the lamp-light o’er him streaming throws his shadow on the floor;
And my soul from out that shadow that lies floating on the floor
Shall be lifted – Nevermore!
(18)
そして大鴉は身動(じろ)ぎもせず、静かに座りつづけ、居続けている。
私の部屋の扉の上のアテナの青白き胸の上、
そして夢見た魔物の眼差しそっくりの眼を具えて
そしてランプの灯りが彼の影を床の上に浮かび上がらす。
そして床の上に揺らめくその影から離れている私の魂
立ち上らない。「Nevermore(二度と)」

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「大鴉」英日対訳注と参考解説

全ての節で、2行と4・5行で脚韻を踏んで、最終行の「nothing more」「evermore」「Nevermore」と韻を踏んでいます。その他、行ごとの韻を踏んだ言葉がたくさんあります。
「Nevermore」(二度とない)を節によって、違った言葉でカッコ書きしていますが、文節から推測できるという、参考です。ただ、「Nevermore」のほうが、より趣があることは言うまでもありません。
(1)tappingとrapping。rappingには「spirit rapping」=霊魂が机などを叩いて、この世の者と意思を伝える、というような意味合いがあります。
(2)ghostを「亡霊」としてありますが、一種霊的なものすべてがghostです。キリスト教の「Holy Ghost」(聖霊)のように超自然の神秘的なものです。日本では、ghost =幽霊と思いがちですので注意が必要です。
(3)fantastic terrorsを「稀なる戦慄」としていますが、fantastic=「素晴らしい、とてつもない、奇妙な…」などの全ての意味合いから、説明のできないことを表しています。
(5)silenceとstillness。「音」の沈黙と「動き」の静寂です。
(6)explore=調べる・探るは、5節のsilenceとstillnessに対比しています。
(7)Pallas女神アテナ(知恵の神)の別名=学問を司ることから、主人公は学生または学究の徒を意味する?すると、その胸像に大鴉が止まることの意味は?
(8)craven(臆病・怯え)、Ravenとの掛詞です。詩の後半で次第に大きくなる大鴉の存在に呼応しています。大鴉もこの行では、まだ「ebony bird 」です。
(8)Night’s Plutonian 夜の冥王星=冥府、あの世、冥界の王プルートが支配する夜。Pallas女神アテナと対比するものです。
(14)熾天使(してんし)神への愛と情熱で体が燃えている=熱い信仰心の象徴?
(14)nepenthe(古代ギリシャ語:Νηπενθές)苦痛を忘れさせるもの、忘却の薬 penthos =悲しみ、喪に服すの意。アヘンなどの麻薬も意味します。
(14)Lenoreレノア、ポーには「Lenore」という他の詩があります。これも若い女性の死を題材にしています。
(15)balm in Gilead「ギリヤドの香油」(en:Balsam of Mecca)(悲しみや苦痛を忘れさせる薬)
(15)this home by horror haunted。「恐ろしき幽冥たるこの館」とわけの分らない訳ですが、安息と思慮・研究の家が「恐怖に満ちた家」になっています。
(16)「Aidenn」(エデンの園=Garden of Edenの別名)
(18)the pallid bust of Pallas。理性と知恵の象徴である女神アテナの胸像が、死者のように青白く見えることを意味しています。

コメントをどうぞ

  1. のざわ より:

    はじめまして。Ravenを調べたくて、たどり着きました。エドガー・アラン・ポーの詩だったことを知りました。学生時代に授業で習ったことだけ覚えていました。朗読も視聴させていただき、興味深く楽しませていただき、ありがとうございました。旧約聖書を英語で学ぶ会があって、創世記8章にノアの方舟が出ているのですが、雨が止んで、水が引いて、ノアがまずravenを窓から放ち、その後doveを放つ。ravenとdoveは何を象徴しているのだろう?という質問が出て、明白な答がないままでした。この詩の中でravenはnever moreと繰り返す象徴的な存在ですね。創世記にヒントを得ているのでしょうか?ravenとは架空の鳥なのでしょうか?普通の烏はcrowですよね。もっといろいろ調べてみたいと思います。ありがとうございました。

    • call@magictrain.biz より:

      のざわさん。
      コメントありがとうございます。

      Ravenとは、和名「ワタリガラス」・大ガラス(大鴉)という、黒い羽毛の大型のカラスのことです。古来、この鳥は、神・異界の使者・メッセンジャーと思われてきました。日本の八咫烏とも伝説のルーツが繋がってのかもしれません。それから、ravenはneverの単語が一字違いの逆さ言葉というのも、この詩の象徴的な隠し味です。英語・古文調和訳でも分からないの詩なので、少しでも知的刺激の参考になったならば幸いです。