ジョン・コルトレーン「マイ・フェイヴァリット・シングス」:John Coltrane Soprano “My Favorite Things”

John Coltrane “My Favorite Things" 1961 (Reelin’ In The Years Archives)
John Coltrane – My Favorite Things (Stockholm, November 23, 1961)
John Coltrane Quartet – “My Favorite Things" 1965
ジョン・コルトレーン(John Coltrane、1926年-1967年)の1960年のヒット「マイ・フェイヴァリット・シングス」です。
コルトレーンは、13歳のときにクラリネットを始め、その後、アルト・サックス、テナー・サックスに転向し、この「マイ・フェイヴァリット・シングス」では、ソプラノ・サックスで演奏し、ソプラノ・サックスの楽器としての可能性を拡げました。そしてコルトレーンが41年の生涯で、一番愛したであろう曲がこの「マイ・フェイヴァリット・シングス」です。
「マイ・フェイヴァリット・シングス」は、あの有名なミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』の「My Favorite Things」(私のお気に入り)です。映画ではジュリー・アンドリュースが子供たちの前で、生きることの楽しさを教える歌です。コルトレーンはこの曲を聴いて、直ぐに自分のレパートリーに加えて、レコードに吹き込みました。その初期の演奏が一番上の動画です。コルトレーンは、曲のメロディを大切にしながら、その音楽的才能を加味して、叙情ある美しい演奏を残しました。しかし、コルトレーンにとっては、自分の求めている音が出せなかったと、執拗にという表現が過言でないほど、この曲を繰り返し、本当に納得いくまで変えてゆきました。そして晩年の演奏が、2・3番目の動画です。ここには、叙情的なメロディも断片となって、元の曲の面影はありません。残っているのは、コルトレーンの感性の叫びというものです。しかしこれも聴く者にとっては、60年の演奏以上に言葉では言い表せないような高揚感に満ちています。どちらが好きかは聴く人の好みかもしれませんし、その人の歩んだ人生にもよるかもしれません。
ただ、これと同じようなことを、絵画の世界で行った人がいます。パブロ・ピカソです。自分の感性を信じて、スタイルを次々と変えて、最終的には既存の絵画を破壊して、自分だけの世界を作り上げました。コルトレーンにとっても同じ心境だったような気がします。
この曲を聴くと何時も思い出す小説があります。「タイムマシン」や「宇宙戦争」を書いたH・G・ウェルズの「愛の真珠」という短編です。内容は、「愛する妃に先立たれたインドの王様が、いつまでも妃を忘れないようにと、死んだ妃の棺を安置するために、この世で一番美しい霊廟を作る物語です。その霊廟の名前が『愛の真珠』です。そして、長い年月による度重なる改造を経て、霊廟が完成します。建物の内外、細部に至るまで、全てに統制された霊廟が完成すると、どうしてもその美を損なうものがあることに王は気付きます。そして、長い沈黙の後で、王は愛する妃の眠る大理石の棺を指差し、家来たちに『あの棺をどかせ』と命じる。」というものです。追い求める美のために、自分の一番愛したものを捨てるというこの寓話は、コルトレーンにとっての「マイ・フェイヴァリット・シングス」の美しいメロディを連想させます。
それと、コルトレーンがソプラノ・サックスで追い求めた音は、13歳のコルトレーンが奏でたクラリネットの世界のようにも思います。始めて音楽を奏でる喜びとその思い出を求めて、飽くことなく自分の世界を探したのが、「My Favorite Things」(私のお気に入り)だったのだと思います。
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